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喫煙による直接的な健康被害

能動喫煙によってリスクの上がる疾患を簡単にまとめました。2023年の現在から10年前までに報告された教科書的な内容になります。

タバコは身体にとって毒以外のなにものでもないことが実感できます。

さらに禁煙しても疾患の発症リスクの低減効果がでるまで意外と長い期間かかることもポイントです。禁煙を始めるのに早すぎることはありません。

喫煙と寿命

喫煙による平均余命短縮年数は1.7年で、高血圧・高血糖・高コレステロール・肥満を総合したもの(1.4年)より寿命を短縮させます(PLos Med 2012; 9: e1001160)。

1920–1945年に生まれ、20歳未満から喫煙を始めた場合、生涯非喫煙者に比べて男性は8年、女性は10年寿命が短縮したと報告されています(BMJ 2012; 345: e7093)。これはタバコ1本あたり14分の余命短縮に相当します。

60歳以後、喫煙継続者は生涯非喫煙者より平均余命と健康寿命が約4年短縮します。60歳までに禁煙した男性では生涯非喫煙者とほぼ同じ寿命延長効果がみられたましたが、60歳までに10%がすでに死亡しており(非喫煙者の2倍),やはり若年からタバコを吸わないことが重要です。なお、女性喫煙者では禁煙による寿命延長効果はみられませんでした(NIPPON DATA90)。

 

悪性腫瘍

喫煙は肺を主として約20箇所(食道,膵臓,大腸,子宮頚部など)の発癌リスクを上昇させる強いエビデンスがあります.重複癌も多くなります。

日本の疫学調査では喫煙による相対リスクは、肺癌で約4倍、胃癌で約2倍であり、悪性腫瘍以外にも脳梗塞(2倍),心筋梗塞(2倍),糖尿病(1.4倍)で発症リスクが増加した。

肺癌では喫煙年齢が早く、喫煙年数が長く、喫煙本数が多いほど発癌のリスクが増大します.禁煙が早いほど癌の予防効果が大きくなります。

禁煙後、発癌リスクはすぐには低下しません。発癌リスクが高い状態でしばらく経過した後に、リスク低減効果が現れます。

癌発症後も,喫煙を継続してる患者に比べて禁煙した場合の方が生存期間は長くなります。

 

循環器疾患

Framingham研究(アメリカの大規模疫学研究)の報告では、健常人における虚血性心疾患に対するリスクは、喫煙単独で1.6倍、喫煙+高血圧で4.5倍、喫煙+高コレステロール血症で6倍とされ、三者併存では16倍にも上昇します。

喫煙による心筋梗塞リスクのなかでも喫煙の寄与度は3.0倍で糖尿病と同じくらい高いと報告されました。なお、高血圧は2.7倍、肥満は1.2倍でした(INTER-HEART study).

禁煙の循環器疾患における予防効果は、アスピリン・降圧薬・スタチンなどの薬剤療法よりも強く、そのリスク低減効果は禁煙後比較的早期に現れるとされます。

喫煙が循環器疾患発症に関連する機序は以下のものが考えられています。

 ・ニコチンが副腎からカテコラミン分泌を促進させ、血管収縮・血圧上昇・脈拍増加をもたらす。

 ・血管収縮物質のトロンボキサンA2を遊離させる。

 ・一酸化炭素による末梢組織への酸素供給が低下する。

 ・活性酸素やフリーラジカルによる酸化ストレスや酸化LDLによる血管内皮機能障害 → マクロファージが酸化LDLを取り込むことで粥状動脈硬化が進行する。

 ・血小板凝集促進やフィブリノーゲン増加より易血栓性となる。血小板凝集作用の増強は1日1-2本でも最大となるため、ちょっと吸っても血栓ができやすくなる。

 ・炎症反応が惹起され、ICAM-1やVCAM-1などの接着分子の発現が促進される。TNFαなどのサイトカイン産生が促進され、抗炎症性のアディポネクチン産生は低下する。

 ・血小板凝集に関連するPAR-1とPAR-4におけるCpGの低メチル化とも関連する(血栓ができやすくなるスイッチが入る)。

 

脳血管障害

能動喫煙は脳卒中の危険因子となり、特に中年層で喫煙本数に依存して発症リスクが増加します(脳梗塞 約2倍、くも膜下出血 約3倍)。

女性の場合、脳梗塞のリスクは喫煙単独で1.24倍,経口避妊薬で2.0倍,喫煙+経口避妊薬で7.2倍と相乗効果があります(Lancet 1996; 348: 498-505)。45歳未満では経口避妊薬使用や前兆のある片頭痛がある女性で喫煙による脳卒中リスクはさらに高くなります。

脳卒中のリスクを低減するのは完全禁煙しかありません。

 

COPD

喫煙者の15-20%がCOPDに進行します。

禁煙はCOPDの進行を抑制するため、できるだけ早くの禁煙が重要です。

COPDであることは肺癌のリスクを上昇させます。同じ喫煙者でも、COPDがあると肺癌の合併リスクが2-5倍になります。

COPDだけでなく肺線維症や気胸、結核などの肺疾患も喫煙がリスクになります。タバコ煙に対するアレルギーがある場合は、急性好酸球性肺炎などの急性疾患も引き起こします。

 

糖尿病

喫煙はインスリン抵抗性を介して糖尿病の発症率を上げ、心血管疾患の合併リスクに繋がります。

糖尿病患者が禁煙した場合、一時的に体重が増えても心血管リスクは低減します。

 

消化器疾患

消化器疾患は多様な病態を示すため、呼吸器・循環器疾患と比較すると喫煙の影響がわかりにくいものの、近年の疫学調査で喫煙との関連が認められつつあります。

 ・喫煙者の食道癌リスクは非喫煙者の7.4倍。

 ・胃癌は喫煙によって相対危険度は男性で1.8倍、女性で1.2倍に上昇する。

 ・大腸癌は喫煙によって罹患率や死亡率が上昇する。

 ・喫煙はクローン病の発病・再発・手術の危険因子となる。

 ・喫煙によって慢性肝炎や肝硬変の進行を促進する。NASHやNAFLDも禁煙が増悪因子となる。

 ・胆石・胆のう炎、胆のう癌も喫煙がリスク因子となる(JPHC study, JACC study)。

 ・急性膵炎、慢性膵炎、膵癌も喫煙によりリスクが増大する。

 

腎疾患

喫煙は慢性腎疾患発症のリスク因子となります。

禁煙によって慢性腎疾患の進行、心血管疾患の合併、死亡のリスクが低減します。

 

アレルギー疾患

喫煙は免疫応答をTh2にシフトさせ、アレルギー疾患が発症・増悪しやすい状況を作ります。

喫煙は気管支喘息の発症や進行に関与し、吸入ステロイドの効果も減弱させます。

出生前の母親の喫煙も子供の喘息やアトピー性皮膚炎発症のリスク因子となります。

 

産婦人科疾患

喫煙は胎児発育不全だけでなく、妊娠の転帰にも直接影響します(自然流産は約2倍、早産は1.4-2倍)。

他の産科疾患のリスクにもなり、絨毛羊膜炎は2倍、常位胎盤性早期剥離は1.4-2.4倍、前置胎盤は2-3倍、異所性妊娠は2倍となる。

母親の喫煙によって口唇口蓋裂、四肢欠損、腹壁破裂、神経管欠損、先天性心疾患などの児の先天異常との関連性が指摘されています。父親の喫煙によって二分脊椎が増加すると報告されています。

出生後の新生児・乳幼児に対しては呼吸器感染症、中耳炎、小児喘息のリスクを高めます。周囲の喫煙環境に依存して乳幼児突然死症候群の頻度も高くなり、ニコチンの曝露による胎児脳幹部のセロトニン受容体機能異常が原因として考えられています。さらに喫煙する妊婦から産まれた子供は、非喫煙者からの子供と比べて知能指数が4–6ポイント低く、その低下の度合いは母親の喫煙本数に比例します。母親の喫煙と児の発達障害との関わりも指摘されています。子供は受動喫煙・三次喫煙からの健康被害を被り、ニコチン依存性も短期間で獲得するとされています。

喫煙により月経困難、月経の周期不整、経血量の増加などが引き起こされます。また、喫煙者は閉経が2年ほど早くなるとの報告もあります。

喫煙は細菌性腟症の発症と強く関連します。タバコ煙に含まれるベンゾピレン化合物が腟内の乳酸桿菌を減少させ、膣の自浄作用が低下することで発症します。細菌性腟症は切迫早産や早産の原因となります。

喫煙者は非喫煙者に比べて妊娠するまでに1年以上余計にかかるとされます。基礎研究からは卵管上皮の線毛機能、卵管平滑筋収縮、卵管の卵子ピックアップ率などの卵管機能への悪影響が報告されています。

非喫煙者に対して喫煙者の不妊症のodd ratioは1.6で、喫煙が不妊を引き起こす可能性が高いことが示唆されています(Hum Reprod 1998; 13: 1532-1539)。

喫煙男性においては精子数や精子運動の低下などが報告されています。

 

精神疾患

習慣的な喫煙自体が、タバコ使用障害という精神疾患になります。

喫煙はアルツハイマー病発症の危険因子です。

統合失調症患者の喫煙率は健常人と比べて有意に高いとされます。

喫煙とうつ病罹患は相関します。

 

皮膚疾患

喫煙により、顔色が悪くメラニンや皺の目立ようになります(スモーカーズフェイス、シガレットスキン)。抗酸化物質のビタミンCが喫煙によって生じるフリーラジカルを除去するために大量に消費されることが原因と考えられています。喫煙は美容に最悪です!

喫煙はアトピー性皮膚炎などの皮膚疾患のリスクになります。

 

耳鼻咽喉科疾患

能動喫煙だけでなく受動喫煙も頭頚部癌のリスクになります(Health 2012; 4: 619-624)。中咽頭癌、下咽頭癌、喉頭癌の患者の喫煙率はそれぞれ82%、91%、96%で、受動喫煙も含めるとそれぞれ94%、99%、99%となります。逆に受動喫煙もない非喫煙者の場合は、これらの頭頚部癌を発症することは極めて稀とされ、頭頚部癌は喫煙者の癌としか言いようがありません。

喫煙は多くの口腔疾患と関連しますが、とりわけ歯周疾患を起こしやすくなります。禁煙すると数週間のうちに歯肉血液量や歯肉溝浸出液量が非喫煙者のレベルにまで回復しますが、歯周疾患の発症リスクが低減するまでには長期の年月が必要です(禁煙2年以内ではOR 3.22、11年以上になってようやくOR 1.15)。

喫煙はう歯や歯肉メラニン色素沈着症と関連します。

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