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お腹が痛い

腹部には胃・十二指腸、小腸、大腸、肝臓、胆のう・胆管、膵臓、大動脈、子宮・卵巣など様々な臓器があり、それぞれを繋ぐ血管や神経のネットワークが張り巡らされています。
それらに何らかの異常が生じたとき、腹痛を感じるようになります。
痛みを感じる部位に異常があることが多いですが、痛み刺激の伝達に関係する神経や筋膜などの関係で痛みの場所と原因となる臓器が一致しないこともあります。

原因となる疾患

便秘

大腸は便をこねくり回しながら肛門へ排出していきますが、この運動はぜん動運動(伝播性収縮)と分節運動(局所性収縮)に分けられます。
蠕動運動が弱く分節運動が強くなると糞便が大腸を通過するのに時間がかかり便秘になります。
この大腸の運動に異常が生じると便秘になりますが、しばしば腹痛を伴います。
胃のむかつきや吐き気を伴うこともあり、排便で改善することが多いです。

感染性胃腸炎

食中毒や感染性腸炎など病原体が腸管に感染した場合、吐き気・嘔吐・下痢・腹痛などの腹部症状が出現します。
下痢は水のような水様下痢が多いです。
数日経って原因となるものが腸管からなくなれば症状は消失します。
O157などの腸管出血性大腸菌の場合は毒性が非常に強く、40℃前後の高熱や激しい腹痛、大量の下血を来たし、死に至ることもあります。

胃炎・胃十二指腸潰瘍

胃の壁細胞から胃酸という強酸性の消化液が分泌されており、胃は分厚い粘膜や酸を除去する上皮細胞などで胃酸に耐えられる構造をしています。
しかし、ピロリ菌感染や鎮痛薬の内服、食生活の乱れ、心身のストレスなどによって、この防御機構が破綻すると粘膜や腸管上皮が障害されて痛みを生じます。
さらに腸管壁の損傷が進行すると消化管出血を合併し、吐血や血便・下血を伴うことがあります。

機能性ディスペプシア

機能性ディスペプシアは内視鏡やCT、血液検査などの一般的な検査で明らかな異常がみられないにもかかわらず、慢性的に胃の痛みや胸焼けなどの症状を繰り返す疾患です。
様々な病態解釈がありますが、食生活の乱れ、腸内細菌、心理的な要因、幼少期のストレス、遺伝的素因などの因子が影響して、十二指腸粘膜に好酸球や肥満細胞などの免疫細胞が集簇して、胃の運動異常と内臓知覚過敏が生じることで発症すると考えられています。
日本人の約10人に1人が機能性ディスペプシアであるといわれ、非常に有病率の高い疾患とされています。

過敏性腸症候群

過敏性腸症候群は機能性ディスペプシアと似た疾患概念で、機能性ディスペプシアと合併することも多いです。
こちらも食生活の乱れ、腸内細菌、心理的な要因、遺伝的素因、腸管の感染などが影響しますが、ストレスによって腸管でセロトニンが過剰に分泌され、腸の運動異常と内臓知覚過敏が発現すると考えられています。
基本的な症状は腹痛と便通異常ですが、便通異常は下痢型、便秘型、混合型の3つのタイプに分けられます。
疫学調査では日本人の6~14%が過敏性腸症候群とされ、こちらも非常に有病率の高い病気です。

大腸憩室炎・虫垂炎

慢性的な便秘などで腸管内圧が上昇すると、腸管壁の薄い部分が外側に袋状に突出することがあります。
これを憩室といい、ときに細菌感染や血流障害をおこして炎症の主座となります。
同様に大腸の回盲部(右下腹部)にある虫垂に炎症がおきると虫垂炎(いわゆる盲腸)を発症します。
どちらも発熱や腹痛を伴い、炎症が高度であれば手術が必要になることもあります。

尿管結石

腎臓から膀胱へとつながる尿管に結石がはまり込むことで強い痛みがおこります。
強い腰痛が一般的ですが、わき腹から下腹部に痛みを感じることもあります。
痛みが強いと吐き気・嘔吐を伴うこともあり、結石が排出されると痛みは速やかに消失します。

ヘルニア

臓器が本来あるべき場所から組織が弱い部分や隙間を通って突出したものをヘルニアといいます。
腹部には脆弱な部分がいくつかあり、消化管のヘルニアは部位によって、鼠径ヘルニア、腹壁瘢痕ヘルニア、大腿ヘルニア、閉鎖孔ヘルニアなどに分類されます。
軽症の場合は、お腹に力を入れたときなどに腸管が突出し、痛みなどなく容易に元に戻りますが、嵌頓して元に戻らなくなると激しい腹痛が出現します。
ヘルニアが嵌頓すると血流障害から腸管壊死に至るため、外科手術が必要となります。

胆石症

胆石は胆汁に含まれる成分が結晶化して固まることでできます。
無症状のこともありますが、胆石ができると右上腹部やみぞおちにさし込むような痛みを感じたり、右肩への関連痛を伴ったりすることがあります。

胆道感染症

消化液の胆汁は肝臓で産生されて胆のうに貯蔵されてから、胆管を通って十二指腸内へ流されます。
結石や腫瘍などで胆管が狭窄して胆汁の流れが滞ると、腸管内の細菌が胆管や胆のう内で増殖し、胆道感染症を発症することがあります。
典型的には右上腹痛や激しい悪寒を伴う発熱、黄疸が出現しますが、胆管炎の場合は重症化して敗血症やショック状態を合併し、死に至ることもあります。

急性膵炎

膵臓は消化液である膵液を産生する臓器ですが、膵炎ではトリプシンやエラスターゼなどの消化酵素が腺房内で活性化し、膵臓の自己分解損傷をおこすことで発症します。
消化酵素によって腸管を損傷したり膵液が腹腔内に漏出したりすると腹膜炎を合併します。
さらに消化酵素が血中に混入すると全身性炎症反応を惹起して死に至ることもあります(重症膵炎は約30%の死亡率)。
胆石によって膵管内圧が上昇することや飲酒量の増加が原因とされています。
膵臓の炎症や損傷が繰り返しおきると膵炎は慢性化しますが、慢性膵炎では発熱はあまりなく、食後の腹痛や吐き気、胃部不快感などがおこります。

心筋虚血の関連痛

組織に加わった侵害刺激は脊髄に伝わり、脊髄から大脳皮質へと伝達されて「痛み」として感じるようになります。
痛みを感知する受容器にはいくつか種類があり、チクッとするような鋭い痛みだけを伝える神経線維や機械的刺激に加えて化学的刺激や熱刺激も合わせてズーンとした鈍痛を伝える神経線維など、痛みが伝わる経路も複雑です。
痛み刺激が神経細胞から別の神経細胞に伝わるとき、神経伝達物質を放出して信号をやり取りするため、ときに別の経路に混線してしまうことがあります。
そうなると侵害刺激が加わった部位とは全く別の所に痛みを感じるようになり、これを「放散痛」や「関連痛」と呼びます。
心臓は関連痛が起こりやすい臓器として知られており、狭心症や心筋梗塞などで首や顎、肩、左上肢、背中、上腹部などに痛みを感じることがあります。

腹部大動脈瘤

大動脈は体の中心を走っている最も太い血管であり、全身の組織に血液を送り出す動脈の本幹です。
腹部大動脈の直径は通常20mmほどですが、局所的に直径30mm以上膨れたものを腹部大動脈瘤といいます。
大動脈瘤は大きければ大きいほど拡張しやすく破裂しやすいとされており、直径60-70mmの腹部大動脈瘤では1年間で10-20%の症例が破裂しています。
大動脈瘤が急速に拡大したり破裂しかけたりすると強く持続する腹痛や腰痛を生じます。

大動脈解離

動脈は外側から「外膜」「中膜」「内膜」という3つの層で構成されており、ときに内膜が破けて中膜の隙間に血液が流れ込んで血管が縦方向に剥がれるように裂けることがあります。
これを動脈解離といい、動脈瘤を形成して破裂に至ったり、分枝動脈を閉塞して臓器虚血を合併したりします。
大動脈は体の中心を走っている動脈の本幹であるため、大動脈解離は致命的な経過を辿ります。
大動脈解離の症状は強い背部痛が一般的ですが、心臓に近い部分の解離では胸痛、横隔膜より下の解離では腹痛や腰痛を伴います。
また、分枝動脈を閉塞して臓器虚血をきたした場合は、それに応じた症状が出現し、腹部大動脈の解離では腎梗塞や急性下肢動脈閉塞などを合併することがあります。

月経困難症

女性の月経直前から月経期間中におこる下腹部痛や腰痛、腹部膨満感、吐き気・嘔吐、頭痛、全身倦怠感、抑うつなどの症状を月経困難症といいます。
大半が子宮内膜から分泌されるプロスタグランジンの過剰分泌による機能性月経困難症で、鎮痛薬や低用量ピルなどで治療されます。
しかし一部には子宮内膜症や子宮筋腫、子宮腺筋症といった婦人科疾患による器質的月経困難症があり、不妊症の原因にもなることがありますので、心当たりがある方は早めに婦人科に受診しましょう。

異所性妊娠(子宮外妊娠)

正常の妊娠では受精した卵子は卵管 → 子宮 → 子宮内膜へと移動して子宮内膜に着床します。
しかし、稀に受精卵が子宮内膜以外の部分に着床して発育することがあります。
異所性妊娠は卵管で発生することが多く、流産せずに発育した場合は卵管が破裂し、腹腔内に大出血を起こすことがあります。
妊娠可能な女性の方で、下腹痛に加えて月経の停止や性器からの出血がみられた場合は、速やかに婦人科を受診しましょう。

受診の目安

腹痛の原因となる疾患は便秘や胃腸炎のような軽症のものから急性膵炎や腹部大動脈瘤のような命に関わるものまで多岐にわたり、症状や身体所見だけでは診断できないことがあります。
下記の症状を伴う腹痛は重篤な疾患の可能性が否定できないため、すぐに医療機関へ受診しましょう。

  • 自制できない強い痛み、のたうち回るような痛み
  • お腹全体がカチカチに硬くなっている
  • 38℃以上の高熱がある
  • 嘔吐を繰り返している
  • 吐血もしくは血便を伴う
  • 月経の停止もしくは女性器からの出血を伴う
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