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胸が締め付けられる、胸が痛い

胸部には心臓、大動脈、肺・気管支・胸膜、食道、胃・十二指腸、肋骨・肋軟骨など様々な臓器があり、それぞれを繋ぐ血管や神経のネットワークが張り巡らされています。
それらに何らかの異常が生じたとき、胸痛を感じるようになります。
痛みを感じる部位に異常があることが多いですが、痛み刺激の伝達に関係する神経や筋膜などの関係で痛みの場所と原因となる臓器が一致しないこともあります。

原因となる疾患

逆流性食道炎

胃の内容物が食道に逆流することによって食道の粘膜に炎症が生じる病気です。
胃の壁細胞から胃酸という強酸性の消化液が分泌されており、胃は分厚い粘膜や酸を除去する上皮細胞などで胃酸に耐えられる構造をしていますが、食道は無防備であり胃酸によって容易に炎症が生じてしまいます。
通常は食道と胃の境目は括約筋によってきつく閉じられていますが、加齢や肥満、妊娠などで胃が圧迫されることなどで括約筋が緩むと胃の内容物が食道に逆流して逆流性食道炎を発症します。食生活の乱れ、飲酒、喫煙なども発症に関わっているとされています。
一般的な症状として、胸やけや呑酸(酸っぱいものが上がってくる)、胸痛などが生じます。
慢性的な経過の場合、声のかすれや空咳などが続くこともあります。

肋間神経痛

肋間神経は胸椎から左右に対となって出ている神経で、肋骨の下側を走行して胸壁や腹壁の筋肉や皮膚の知覚などを司っています。
何らかの原因で肋間神経に異常な刺激が生じるようになると肋間神経痛として強い胸痛・背部痛をきたすようになります。
原因としては後述する帯状疱疹による肋間神経痛が多いですが、高齢者では円背が進行して下部肋骨がクロスするように亜脱臼したケース(slipping rib症候群)もみられます。

帯状疱疹

水痘帯状疱疹ウイルスによる感染症で、このウイルスは神経節に潜伏し、免疫力が低下すると再活性化して帯状疱疹として発症します。
胸椎レベルの神経節の支配領域(左右片方の背?胸部)にピリピリした痛みや知覚過敏、知覚鈍麻などを生じます。
典型的には水疱を伴った赤くただれたような皮疹が出現しますが、痛みが皮疹に数日~1週間ほど先行することが多く、皮疹が出現しないケースもあります。
また、軽快した後も痛みだけが後遺症のように残ることもあります(帯状疱疹後神経痛)。

気胸

肺は胸腔と呼ばれる空間に納まっており、胸腔内は胸膜と呼ばれる膜で裏打ちされています。
肺の表面は臓側胸膜と呼ばれる膜で覆われていますが、何らかの原因で臓側胸膜が損傷を受けると、肺の中の空気が胸腔内に漏れ出ることがあります。
これを気胸といい、胸膜が剥がれることで胸痛や背部痛が出現します。
さらに肺が虚脱すると呼吸困難や咳が生じ、胸腔内圧が上昇するほど空気が漏れ出てしまうと心臓や血管を圧迫してショック状態に陥ります(緊張性気胸)。
自然気胸は背の高くて痩せている若年男性におこりやすいとされていますが、肺気腫や肺癌、子宮内膜症(肺に子宮組織が発現)などでもおこります。

胸膜炎

何らかの原因で肺の表面を覆う胸膜に炎症が生じた病態です。
胸膜に炎症が起こると胸腔に胸水と呼ばれる液体がたまり、呼吸時の胸の痛みと相まって強い呼吸困難が生じます。
肺炎から波及したものや悪性腫瘍(癌性胸膜炎)、膠原病などが原因となります。
肺炎から波及したものでは高熱と強い胸痛がしばしば出現します。

大動脈瘤

大動脈は体の中心を走っている最も太い血管であり、全身の組織に血液を送り出す動脈の本幹です。
腹部大動脈の直径は通常30mmほどですが、局所的に直径45mm以上膨れたものを腹部大動脈瘤といいます。
大動脈瘤は大きければ大きいほど拡張しやすく破裂しやすいとされており、直径60mm以上の胸部大動脈瘤では1年間で10-20%の症例が破裂しています。
大動脈瘤が急速に拡大したり破裂しかけたりすると強く持続する背部痛や胸痛を生じます。

大動脈解離

動脈は外側から「外膜」「中膜」「内膜」という3つの層で構成されており、ときに内膜が破けて中膜の隙間に血液が流れ込んで血管が縦方向に剥がれるように裂けることがあります。
これを動脈解離といい、動脈瘤を形成して破裂に至ったり、分枝動脈を閉塞して臓器虚血を合併したりします。
大動脈は体の中心を走っている動脈の本幹であるため、大動脈解離は致命的な経過を辿ります。
特に心臓から上方へ向かう上行大動脈に解離が生じた場合、心臓を栄養する冠動脈や脳の血流を担う総頸動脈を閉塞して心筋梗塞や脳梗塞を合併することがあります。
大動脈解離の症状は強い背部痛が一般的ですが、心臓に近い部分の解離では胸痛、横隔膜より下の解離では腹痛や腰痛を伴います。
また、分枝動脈を閉塞して臓器虚血を合併した場合は、それに応じた症状が出現します。

狭心症・心筋梗塞

心臓の内腔には血液が流れていますが、心臓筋肉は内腔の血液からは栄養されず、冠動脈という専用の血管から酸素や栄養を受け取ります。
狭心症や心筋梗塞は何らかの原因で冠動脈の血流が低下・遮断されることで発症し、典型的には左前胸部の締め付けられるような痛みを生じます。
心臓は様々な膜や神経に覆われており、心臓に生じた痛みは神経細胞を伝達していく過程でしばしば混線し、まったく別の場所に痛みを生じることがあります。
これを「放散痛」や「関連痛」といい、狭心症や心筋梗塞などでは左前胸部痛に加えて首や顎、肩、左上肢、背中、上腹部などに痛みを感じることがあります。

肺血栓塞栓症

全身の静脈血は心臓に集められ、ガス交換をするために肺へ送られます。
この心臓から肺に向かう大きな血管を肺動脈といい、下肢の静脈血栓などでこの血管が閉塞すると肺血栓塞栓症を発症します(エコノミークラス症候群として有名)。
肺血栓塞栓症で肺への血流が低下するとガス交換が障害されているため、いくら呼吸をしても息苦しさが続きます。
さらに肺の組織が壊死に陥ると、肺梗塞を合併して胸膜が刺激されて発熱や胸痛が出現します。
肺動脈の主幹部を塞いでしまうほどの大きな血栓が飛んだ場合は、心臓の右心室が左心室を押しつぶすほどパンパンに膨張し、短時間でショック状態から死に至ることもあります。

心膜炎・心筋炎

何からの原因で心筋や心膜に炎症が生じた病態です。
若く健康な方でも風邪や胃腸炎の原因となるウイルスによって発症することが多く、「心臓の風邪」といったイメージの疾患ですが、ときに劇症化して短時間で死に至ることもあります。
また、真菌や結核菌による感染や膠原病、悪性腫瘍によるものでは重篤で予後は非常に悪いです。
典型的な症状は発熱を伴う胸痛ですが、心膜炎の方が心筋炎より胸痛が強い傾向で、心のう液貯留などを認めます。

受診の目安

胸部には心臓や肺、大動脈など生命活動に直結する臓器があるため、今までに感じたことがないような胸の痛みが出現したならば医療機関を受診した方がよいでしょう。
以下の症状を伴うときは緊急性が高いため救急車を呼びましょう。

  • 過去に経験がないような強い痛み
  • 誘因なく急激に発症した胸痛
  • 強い息苦しさを伴う
  • 意識レベルが低下している
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