意識がもうろうとする、気を失った
意識がもうろうとしたり気を失ったりすることを意識障害といい、「意識レベルが低下する」などと表現します。
また、一時的に意識を消失し、その後完全に意識が戻ることを「失神」といいます。
脳が意識を保つための必要な要素である、①脳皮質の正しい電気的活動、②ブドウ糖、③酸素、④ブドウ糖と酸素を脳へ届けるための血圧・血流のいずれかが障害されると意識障害や失神をきたします。
原因となる疾患
起立性低血圧
椅子から立ち上がったり、寝床から起き上がったりした後に失神する疾患で、脳への血流を調節する機能が低下していることが原因になります。
脱水や出血など循環血液量が減少している背景がしばしばありますが、動脈硬化が進行した状態だけでもおこりえます。
神経調節性失神
何らかの原因で迷走神経の活動性が亢進して徐脈と血管拡張をきたすことで生じる失神です(血管迷走神経反射)。
亜型として、咳や排便、排尿、食事をした後など特定の状況がトリガーとなる状況性失神、頸動脈洞が圧迫される動作(頭を回す、襟のボタンをかける、ひげそりなど)で迷走神経反射のスイッチがはいってしまう頚動脈洞症候群があります。
心臓性失神
大動脈弁狭窄症や閉塞性肥大型心筋症などの心臓から拍出される血液量(心拍出量)が低下する心疾患は、脳への血流が低下して失神に至ります。
脈は速すぎても遅すぎてもダメで、1分間に180拍以上の頻脈もしくは40拍未満の徐脈の場合、脳への適切な血流が保持できない可能性があります。
頻脈性不整脈としては心室頻拍など、徐脈性不整脈は房室ブロックなどがあります。
脳血管障害
血流低下によって大脳皮質の広範な障害がおきたとき、もしくは意識をつかさどる網様体賦活系に障害がおきたときに意識レベルが低下します。
脳梗塞でも脳出血でも広範囲であれば意識障害を合併します。網様体賦活系がある脳幹の梗塞や血流低下は小規模であっても意識障害をきたし(椎骨脳底動脈循環不全、椎骨脳底動脈解離、脳幹梗塞)、ときに致死的な経過を辿ります。
てんかん
大脳にある数百億もの神経細胞は、規則正しいリズムでお互いの調和を保ちながら電気的に活動しています。
てんかんは脳細胞の電気的な調和が乱れて嵐のような興奮が発生することで発症します。
発作時の症状は電気的な異常興奮が生じる部位や強さによって、手足をもぞもぞ動かしたり口をもぐもぐさせたりする軽度なものから全身の激しい痙攣まで大きく異なります。
意識障害もよくある症状の1つで、ボーッと眠そうにするだけであったり眼をあけたままフリーズするように意識を失ったりと、見た目では分かりにくい意識消失発作もしばしばみられます。
電解質異常
電解質とは、水などに溶解したときに陽イオンと陰イオンに電離する物質のことで、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどがあります。
これらは身体の機能の維持や調節など、生命活動に必要な役割を果たすために体液や組織のなかで一定の濃度に保たれています。
この恒常性が破綻して濃度に過不足が生じた状態を「電解質異常」といいます。
脳の神経細胞の電気的活動は電解質によって生み出されているため、電解質異常は意識障害を引き起こします。
電解質異常は腎不全や利尿薬などの薬剤、甲状腺・副甲状腺・副腎などの内分泌系の疾患でよくみられます。
酸塩基平衡の異常
酸塩基平衡とは、体内での酸と塩基のバランスを指し、いわゆる「酸性かアルカリ性か」を示すpHの調節のことです。
酸塩基平衡はいくつかの緩衝システムによって体液のpHが7.25~7.45と非常に狭い範囲に保持されており、主に肺と腎臓で水素イオンと重炭酸イオンによって調整されます。
体液のpHが異常に酸性に傾く病態をアシドーシス、異常にアルカリ性に傾く病態をアルカローシスといい、どちらも進行した病態では意識障害をおこします。
血糖値の異常
ブドウ糖は細胞の主要なエネルギー源ですが、神経組織はブドウ糖の依存度が高い反面、組織内に貯蔵することができないため、低血糖では意識障害をはじめ様々な神経症状をきたします。
逆に過度の高血糖が持続した場合も神経細胞の脱水やアシドーシスなどを生じて意識障害をおこします。
低酸素血症
脳はブドウ糖だけでなく酸素の消費量も多く、約1400gの重量で全身の酸素消費量の25%を占めます。
一方で脳は筋肉のように酸素を貯蔵することができないため、酸素不足に対してとても弱い臓器です。
脳への酸素供給が完全に停止した場合、1分で脳の機能が停止して意識障害をきたします。
さらに5分以上酸素が供給されないと脳に不可逆的なダメージが生じ、最終的に死に至ります。
薬剤性
上記のように意識障害の原因となり得る血圧や脈拍、神経細胞の電気的活動、ブドウ糖、電解質などに影響を与える薬剤は、その副作用として意識障害をきたす可能性があります。
具体的には、降圧薬では血圧低下、利尿薬では脱水による血圧低下や電解質異常、抗不整脈薬では徐脈もしくは頻脈(催不整脈性)、血糖降下薬では低血糖などです。
抗うつ薬や抗不安薬などの精神科の薬剤では催眠や鎮静の作用が強すぎる場合、アルコールや医療用麻薬などでは離脱症状がおきた場合に意識障害をきたします。
受診の目安
上記のように致死的であったり寿命を縮めたりする疾患が多いため、失神エピソードが1回でもあったら医療機関を受診した方が無難です。
また、意識レベルが低下した状態は転倒して受傷したり事故に遭ったりするリスクが高くなるため、繰り返さないようにキチンと検査・治療を受けた方が良いと思われます。
以下の症状を伴うときは緊急性が高いため救急車を呼びましょう。
- 意識レベルが改善しない、改善してもすぐに意識レベルが低下する
- ハンマーで殴られたような激しい頭痛
- 痙攣している
- 手足や顔が動かしづらい、呂律が回らないなど麻痺している可能性がある
- 強い胸痛や背部痛を伴う