高血圧
高血圧とは
高血圧は、何からの原因でこれら血圧が上昇し、診察室もしくは家庭の測定で基準値を恒常的にこえている状態を指します。高血圧の基準は診察室血圧で収縮期血圧140mmHg以上または拡張期血圧90mmHg以上、家庭血圧では収縮期血圧135mmHg以上または拡張期血圧85mmHg以上です。
診察室血圧と家庭血圧については文字通り、診察室など医療機関内で測定した血圧を「診察室血圧」、自宅などで測定した血圧を「家庭血圧」といいます。リラックスできるプライベート空間で測定した「家庭血圧」は「診察室血圧」より高血圧の診断ラインが若干低く設定されています。
高血圧は重度でない場合は無症状のことが多いです。収縮期血圧が180mmHg以上もしくは拡張期血圧120mmHg以上の場合は脳の血流圧が上昇して頭痛を来すことがあります(高血圧性頭痛)。また、動脈硬化が進行すると血圧の調整能力が低下して、ふらつきやめまい、浮動感などを感じることがあります。
なぜ高血圧になるのか
血圧は「血圧 = 心拍出量 x 末梢血管抵抗」で表されます。心拍出量とは心臓が1分間に送り出す血液の量のことで、循環血液量が多いときや心筋の収縮力が強くなったときに上昇します。末梢血管抵抗とは血液が末梢の毛細血管に流れるときに受ける抵抗のことで、動脈壁が硬いときや血液の粘稠度が高いときなどに上昇します。心拍出量、末梢血管抵抗、循環血液量、血液の粘稠度、大動脈の弾力の5つが血圧を決める主な要素として知られています。何からの原因でこれら5つの要素を介して血圧が上昇し、高血圧の発症に至ります。
高齢者の高血圧は多くの場合、明確な原因がない本態性高血圧です。この場合も塩分水分過多による循環血液量の増加や動脈硬化による末梢血管抵抗の増大、遺伝的な素因などが複合的に影響していると思われます。若年者の場合は、クッシング病や原発性アルドステロン症、甲状腺機能亢進症といった血圧を上昇させるホルモンの分泌異常など特定の疾患に付随して高血圧を発症することがあります(二次性高血圧)。
高血圧を放置するとどうなってしまうのか
動脈壁には、血圧による血管壁に垂直に作用する力(stretch)と、血流によるずり応力(shear stress)が作用しています。高血圧の場合はこれらの血管に作用するメカニカルストレスが増大し、血管内皮細胞や中膜の平滑筋細胞の形態や機能を変化させます(形質転換)。それが動脈硬化に進行し、ついには血管内腔が狭くなって血流障害をおこしたり、逆に血管内腔が拡張して動脈瘤になったりします。動脈狭窄は栄養を受けている臓器を直接的に障害し、脳梗塞や心筋梗塞、腎不全などの原因になります。動脈瘤は破裂のリスクがつきまとい、脳動脈瘤破裂や大動脈瘤破裂など致命的なイベントに繋がります。
また、高血圧は認知症や大腸癌などの悪性腫瘍といった様々な疾患の発症リスクを上げることが知られています。血圧をコントロールすることは一次予防の要です。
どうすればいいのか
高血圧の治療で最も優先すべきことは減塩です。生活習慣の改善や適度な運動、体重管理、十分な睡眠なども血圧を下げる効果がありますが、普段の料理の味付けを薄くすることが最も重要です。
そのうえで血圧計を用意して自宅で血圧を測る習慣をつけましょう。家庭血圧を記録することで健康管理の意識が高まり、減塩や生活習慣の改善に繋がると言われています。
高血圧のレベルが高い方や動脈硬化に進行してしまった方、臓器障害を合併している方などは降圧薬の服用が望ましいです。
降圧目標については1990年代の欧米の大規模臨床試験からほぼ一貫しており、140/90mmHgまではイベント発生率が減少するものの、それ以下への降圧では効果がないことから、管理目標として140/90mmHgのラインが20年以上定められていました。しかし2015年に発表されたSPRINT試験という大規模臨床試験が行われ、心血管疾患のリスクが高い患者に対しては血圧をさらに下のレベルまで下げた方が疾患発症や死亡のリスクを下げることがわかりました。その後のいくつかの臨床研究やメタ解析などでも血圧140/90mmHgより下のレベルにすることが心血管疾患リスクを下げると示されました。これらを受けて日本高血圧学会では高血圧患者の降圧目標を下表のように設定しています。当院でもこの降圧目標を目安に高血圧の診療を行っています。
診察室血圧 | 家庭血圧 | |
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130/80mmHg未満 | 125/75mmHg未満 |
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140/90mmHg未満 | 135/85mmHg未満 |