花粉症
花粉症とは
花粉症とは、植物の花粉が原因で生じる季節性アレルギー性疾患のことで、アレルギー性の鼻炎や結膜炎が主な症状になります。患者数は年々増加しており、日本人の40%以上が花粉症と推測されています。特にスギによる花粉症が多くを占めますが、スギだけではなくさまざまな花粉が原因になります。
スギ花粉は東京では2〜4月がピークとなります。沖縄や北海道ではスギがないため、スギによる花粉症はほとんどおこりません。スギ花粉の飛散が終わりに近づくと、ヒノキ花粉が飛散し始めます。ヒノキもスギと同じく大量の花粉を遠方にまで飛ばします。
夏の花粉症の原因になるのはカモガヤ、ハルガヤ、オオアワガエリなどのイネ科の植物です。イネ科の花粉の飛散時期は春から秋(4〜10月)と長いですが、遠くへは飛散しないため、生息地域に近づかないことで回避できます。
秋の花粉症はブタクサやヨモギといったキク科の植物などの花粉が原因となります。キク科の花粉も飛散距離が短いので、草むらに近づかなければ発症しづらくなります。
なぜ花粉症になるのか
まず、鼻や目を通じて体内に侵入した花粉の成分は、樹状細胞などの免疫細胞に取り込まれます。次に樹状細胞は、免疫系の司令塔であるヘルパーT細胞に花粉を抗原として提示します。ヘルパーT細胞は抗体を産生するB細胞にこの情報を伝達し、B細胞は花粉成分に特異的に結合する「IgE抗体」を作ります。このIgE抗体は、ヒスタミンなどの化学物質を大量に貯蔵している肥満細胞の表面に取り付いて、次なる花粉の侵入に備えます。
花粉に対する即応体制が整った後は、対象となる花粉成分が体内に侵入するとすぐにIgE抗体を持った肥満細胞が反応し、ヒスタミンなどの化学物質を放出します。それによって鼻水やくしゃみ、眼のかゆさといった一連の症状が出現します。
なぜ花粉が抗原性を持つのかについては諸説ありますが、確立したものはないようです。戦後のスギ・ヒノキの植林や衛生環境の変化、大気汚染、地面のアスファルト化などが花粉症の蔓延に関係していると言われています。
放置するとどうなってしまうのか
花粉症の主な症状は鼻と目に起こりますが、鼻詰まりで口呼吸になると喉が荒れやすくなります。花粉が皮膚につくことで、肌荒れや湿疹をおこすこともあります。基本的に進行する病気ではなくヒトの寿命を縮めたりするものでもありませんが、仕事のパフォーマンス低下などによる社会的・経済的な損失が近年注目されており、花粉症によって1日あたり2000億円以上の経済損失と試算されています。
花粉症は植物の花粉に含まれるたんぱく質に対するアレルギーですが、花粉のたんぱく質と構造が似た物質に対してもアレルギー反応がおこることがあります(交差反応)。
頻度が多いものとしては、
- ハンノキやシラカバの花粉とりんご、もも、大豆
- ブタクサやヨモギの花粉とメロン、セロリ、トマト
などの交差反応です。花粉症の方で食事中に喉の痒みやピリピリした違和感を感じた場合はアレルギーの交差反応である可能性があります。
どうすればいいのか
花粉症の治療は、他のアレルギー疾患と同様に「抗原回避」と「症状緩和」が行われます。花粉を避けるには、マスクやメガネなどを装着したり、居宅内に空気清浄機を設置したりすることが有効です。
症状を緩和させる薬剤は内服薬、点鼻薬、点眼薬など多岐にわたり、医療機関で処方されるものだけでなくドラッグストアなどで購入できる市販薬も多数あります。花粉症に対する内服薬には眠気や集中力低下をおこしやすいものがあり、「服用後に車の運転をしてはいけない」と記載されている薬剤もありますので注意しましょう。
近年ではアレルギー反応自体を減弱させる減感作療法が普及しつつあります。これは少量のアレルゲンを身体に入れて、徐々に慣らしていくことで症状を和らげる治療で、3〜5年間の治療で根治を目指します。舌下免疫療法という舌の下の粘膜からアレルゲンを吸収させる比較的安全性の高い手法で治療します。現在、舌下免疫療法の対象となっているのは、スギ花粉とダニのアレルギー性鼻炎のみですが、強い症状に悩まされている方は是非、検討してみてください。