レプリコンワクチンについて
2024年10月1日からオミクロン株JN.1系統対応の新型コロナワクチンの定期接種が開始されました。これに先立つ9月12日に厚生労働省が次世代mRNAワクチンである「レプリコンワクチン」の製造販売を承認しました。
このワクチンは革新的な技術によって高い有効性が期待される一方で、医療関係者の一部から懸念が表明されるなど、世間から注目を集めています。
レプリコンワクチンとは
レプリコン(replicon)とは、「レプリカ(複製)」という言葉から造られた分子生物学の用語で「コピーされたDNAもしくはRNA」を意味します。
これまで新型コロナウイルスに対して使用されてきたmRNAワクチンは、体内にウイルスのタンパク質をつくることで抗体や免疫を獲得しますが、そのタンパク質はそのまま消滅します。一方でレプリコンワクチンはmRNA自体を複製する酵素も組み込まれており、ウイルスのタンパク質を体内で作り続けます。この「自己増幅」によって従来のmRNAワクチンよりも強い免疫反応を長期間獲得できるとされています。
商品名は「コスタイベ」でアメリカのArcturus Therapeutics社が開発し、日本ではMeiji Seikaファルマ社が製造・販売を担当しています。
将来性と懸念点
レプリコンワクチンは、接種してから一定期間、コロナウイルスに対する抗体産生を促すmRNAが体内で増殖し続けます。これによって必要なワクチン接種量は従来のmRNAワクチンの1/6以下に抑えられ,その効果が長期間持続します。日本で行われたレプリコンワクチンの第Ⅲ相臨床試験では、レプリコンワクチンの追加接種がファイザー社製ワクチンの追加接種と比べて劣っていない(オミクロン株BA.4/5株に対してはより有効)ことが示されました。
レプリコンワクチンは新型コロナウイルスの感染予防や重症化リスクの軽減だけでなく、ワクチン接種回数を削減などが期待されています。さらにレプリコンワクチンの新しい技術は他の感染症や悪性腫瘍に対するワクチンにも応用できるとされており、医療を大きく変える可能性を秘めています。
一方でレプリコンワクチンは開発されてから日が浅いため、長期的な安全性はわかりません。ベトナムで行われた第Ⅲ相臨床試験では、ワクチンとの因果関係は否定されていますがいくつかの死亡例が報告されています。日本で製造販売が承認された9月21日の時点で、開発国のアメリカや臨床試験を実施したベトナムでも製造承認が得られていない点も懸念されます。
さらに「シェディング」という現象が発生する可能性も一部で指摘されています。シェディングとは、従来のmRNAワクチンやレプリコンワクチンによって体内で産生されたmRNAやタンパク質が、接種者の呼気や汗などを通じて他者に影響を与えるという仮説です。ただし、レプリコンワクチンがシェディングをおこす科学的な根拠はなく、レプリコンワクチンは感染性を持たないように設計されていることが報告されています。
当院では使いません
これまでの革新的な新薬と同じように、レプリコンワクチンの将来性には大きな魅力を感じますが長期的な安全性・信頼性は既存のmRNAワクチンの方が高いと思われます。
さらにレプリコンワクチンの「コスタイベ筋注用」は冷凍保存で1バイアルが16人分の用量となっており、当院で使用しているファイザー社製「コミナティ筋注シリンジ12歳以上用」の冷蔵保存・1人用プレフィルドシリンジに比べて、使い勝手が悪い印象です。
そのため当院では今シーズンはレプリコンワクチンの導入は見送り、これまでと同様にファイザー社製のmRNAワクチンを使用する方針としています。