肩の痛み、四十肩・五十肩
肩の痛みは筋肉や骨、関節の問題で起こることがほとんどです。
下肢や腰などのように常に荷重がかかる部位ではないので加齢に伴う変形は比較的少ない印象です。
上肢の作業による負荷で発症することが多いため、その人の職業やライフスタイルに依存する傾向にあります。
原因となる疾患
筋膜性疼痛症候群
トリガーポイントと呼ばれる骨格筋や筋膜の過敏化した侵害受容器による慢性的な痛みを筋膜性疼痛症候群といいます。
悪い姿勢や繰り返し作業などによる筋肉の酷使によって、その筋肉に微小損傷がおこり、筋硬結が形成します。
筋硬結がおこった部位は血流が低下し、低酸素状態になり、サブスタンスPやブラジキニンなどの発痛物質が発生します。
一方で知覚神経の閾値は下がって痛みを感じやすくなります。
変形性頸椎症などでは頭の重さを脊椎で支えることができないため、首~肩の筋肉を日常的に酷使しています。
特に僧帽筋や肩甲挙筋はトリガーポイントを形成しやすく、肩の痛みの原因として最も多いものです。
タイピングや工場での作業、調理など上肢を使った仕事を続けた場合、首から肩・腕にかけての痛みやしびれを伴う凝りが生じることがあります(頚肩腕症候群)。
肩関節周囲炎
何らかの原因で肩甲骨と上腕骨の関節包が固まってしまって、周囲の軟部組織とともに動かなくなった病態です。
最も多いのが四十肩、五十肩といわれるもので中年以降の退行変性を基盤として発症したものです。
他にも腱板断裂や上腕二頭筋腱炎、石灰沈着性腱板炎なども含まれます。
進行すると肩が完全に動かなくなった凍結肩と呼ばれる状態になります。
野球や水泳など肩を大きく動かすスポーツで生じることもあります(野球肩、水泳肩)。
リウマチ性多発筋痛症
大きな関節の滑液包に炎症がおこる膠原病で詳しい病因は解明されていません。
関節リウマチのように朝のこわばりがよくおこりますが、手指の小さな関節は痛まず、主に肩関節と股関節が痛みます(両肩の痛みは必発)。
ステロイドが著効します。
胸郭出口症候群
上腕から脇の中に入っていく血管や神経は筋肉や骨で囲まれた狭いスペースを走行するため、ときに圧迫されて首~肩・上肢の痺れや痛みを生じます。
特になで肩や猫背の女性でよく発症します。
心筋虚血の関連痛
組織に加わった侵害刺激は脊髄に伝わり、脊髄から大脳皮質へと伝達されて「痛み」として感じるようになります。
痛みを感知する受容器にはいくつか種類があり、チクッとするような鋭い痛みだけを伝える神経線維や機械的刺激に加えて化学的刺激や熱刺激も合わせてズーンとした鈍痛を伝える神経線維など、痛みが伝わる経路も複雑です。痛み刺激が神経細胞から別の神経細胞に伝わるとき、神経伝達物質を放出して信号をやり取りするため、ときに別の経路に混線してしまうことがあります。
そうなると侵害刺激が加わった部位とは全く別の所に痛みを感じるようになり、これを「放散痛」や「関連痛」と呼びます。
心臓は関連痛が起こりやすい臓器として知られており、狭心症や心筋梗塞などで首や顎、肩、左上肢,背中、上腹部などに痛みを感じることがあります。
胸痛は一切なく、歯の痛みのみで受診され、狭心症と診断されたケースもあります。
受診の目安
肩の痛みで緊急に治療が必要なケースは稀です。
しかし肩関節は長く動かさないでいると硬くなる性質があり、放置していると肩関節の可動域が狭くなったままで元に戻らなくなることもあります。
セルフケアで改善しない肩の痛みは我慢せずに早めに医療機関を受診しましょう。