便秘
便秘とは排便回数が少なくて便が出にくいことであり、「3日以上排便がない状態、または毎日排便があっても残意感がある状態」をいいます。
大腸は腸管内容物の水分を吸収して固形状の糞便を形成します。
1日に腸管に入る水分は約9Lとされますが、そのうちの6-8Lが小腸で、1-2Lが大腸で吸収され、糞便は0.1L程度の水分と消化吸収されなかった食物残渣、腸内細菌、剥がれ落ちた腸管粘膜などからできています。
大腸は便をこねくり回しながら肛門へ排出していきますが、この運動はぜん動運動(伝播性収縮)と分節運動(局所性収縮)に分けられます。
そして直腸に便が入ると直腸から信号が脳へ送られて便意を感じ、排便反応がおこります。
この一連の大腸機能に異常が生じると便通異常が生じます。蠕動運動が弱く分節運動が強くなると糞便が大腸を通過するのに時間がかかり便秘になります。
直腸と脳の間の神経伝達が障害されると適切な排便反応がおこらず、便秘になることがあります。
また、大腸癌のように腸管内腔が狭くなる疾患でも便秘を生じます。
原因となる疾患
機能性便秘
痩せ型や高齢者、長期臥床などで大腸の蠕動運動が低下することでおこります(弛緩性便秘)。
大腸内の糞便通過時間が長くなり、水分が多く吸収された結果、便が固くなって引き起こされます。
便は水分を失って石のように硬くなることが多いです。
また、便意を我慢する習慣を続けても便秘になります(直腸性便秘)。
過敏性腸症候群(便秘型)
不規則な生活やストレスなどは大腸の蠕動運動をコントロールしている自律神経に影響し、過敏性腸症候群の原因となります。
蠕動運動が亢進すると下痢型、低下すると便秘型になりますが、便秘型はS状結腸が痙攣して糞便がせき止められておこります(痙攣性便秘)。
過敏性腸症候群は腸内細菌や腸管粘膜の炎症なども複雑に関与しているとされています。
大腸癌
大腸癌は進行すると大腸内腔が狭くなり、便秘になることがあります。
この場合は細い便や血が混じった便がみられます。
糖尿病
糖尿病では初期から神経細胞内にブドウ糖の代謝産物が蓄積されて神経障害を来します。
また、高血糖状態が続くと微小血管も障害されて神経細胞への血流を低下させます。
これらの機序で糖尿病性ニューロパチーを合併し、自律神経の障害から下痢や便秘といった便通異常を来します。
甲状腺機能低下症、副甲状腺機能亢進症
甲状腺機能低下症や副甲状腺機能亢進症などの内分泌疾患では腸管の蠕動運動が低下して便秘になることがあります。
精神疾患
うつ病などの精神疾患の人では、腸の蠕動運動が低下して便秘が起こりやすいといわれています。
パーキンソン病
神経細胞に発現するαシヌクレインというタンパク質が凝集・蓄積して中枢神経から末梢神経まで障害していきます。
自律神経も例外ではなく障害され、便秘はパーキンソン病患者でよくみられる症状です。
脳卒中、脊髄疾患
脳卒中や脊髄疾患では直腸と脳の神経伝達が障害されて便意を感じなかったり排便反応が低下したりして便秘になることがあります。
薬剤
利尿薬、鎮痛薬、医療用麻薬、抗癌剤などの副作用で便秘が生じます。
特にモルヒネは高用量になると便秘は必発です。
癒着性イレウス
腹部手術を受けた患者の50-90%に腸管同士や腸管と隣接する臓器などに癒着を生じるとされています。
この癒着により腸管が閉塞してしまった状態を癒着性イレウスといい、便が出ないだけでなく激しい腹痛、腹部膨満感、繰り返す嘔吐などの症状を伴います。
受診の目安
軽い便秘の場合は食事内容の改善や水分補給、運動などのセルフケアで様子を見てもよいでしょう。
しかし便秘を長く放置していると大腸の中で便がますます硬くなり、痔や脱肛などの合併症を生じることがあります。
さらに酷くなると便が大腸の中で完全に止まってしまったり(糞便塞栓)、腸管壁を傷つけたり(大腸潰瘍)します。
便秘は慣れてしまいがちですが、長期間続く場合は医療機関を受診しましょう。
また、次のような症状が見られる場合は、危険な病気の可能性がありますのですぐに診てもらいましょう。
- 強い腹痛を伴う
- 嘔吐を繰り返す
- お腹がパンパンにはっている
- 便に血が混じっている、真っ赤な便がでている
- 38℃以上の高熱がある