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動脈硬化

動脈硬化とは

動脈とは心臓から末梢組織へ血液を送り出す血管で、内膜・中膜・外膜の3層構造になっており、血管内腔は内皮細胞で覆われています。血圧に耐えられるように中膜は平滑筋と弾性線維からなり、伸縮性と弾性を発揮します。大動脈など心臓に近く太い動脈は平滑筋よりも弾性線維を多く含み(弾性動脈)、血管を伸展・収縮させて血圧を調整します。動脈は末梢に行くにつれて細くなっていきますが、中動脈・小動脈の中膜は主に平滑筋でできており(筋性動脈)、平滑筋の収縮・弛緩により血管腔の広さを変えて血流を調節します。さらに末梢の細動脈は交感神経の作用が強くなり、血管平滑筋は持続的に緊張して血管抵抗を生み出しています。血管抵抗は血圧を高く保つ効果があり、各臓器の血管抵抗が増減することにより血流の分配が変化します。

加齢による組織の変化や高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病などによって血管壁にダメージが加わり続けると動脈は弾力性を失って硬くなっていきます。このように動脈が硬く弾力性が失われた状態を動脈硬化と呼びます。動脈硬化とは疾患名ではありませんが、血圧異常や循環障害を引き起こして脳梗塞や心筋梗塞などの心血管イベントの原因となります。

動脈硬化の種類

動脈硬化は主に3つの機序で発症し、「アテローム動脈硬化(粥状動脈硬化)」「メンケベルグ型硬化」「細動脈硬化」と呼ばれます。

  1. アテローム動脈硬化(粥状動脈硬化):血管内腔を覆っている内皮細胞は、血圧上昇などのさまざまな原因で傷つけられることがあります。その傷口から炎症細胞を引き寄せる物質が放出され、白血球の一部(単球)が血管壁に侵入してマクロファージに変化します。このマクロファージは傷口から入り込んだコレステロールなどの脂肪性物質を内部に蓄えて「泡沫細胞」になります。同時に血管平滑筋細胞の脱分化や増殖などもおこり、膨らんだ動脈硬化巣を形成します。この肥厚した病変をプラークといい、増大したプラークは血管内腔を狭くして臓器血流を低下させる原因となります。さらにプラークを覆っている被膜が破れると急激に血栓が形成されて臓器の梗塞を引き起こします。アテローム動脈硬化は大動脈〜中動脈におこりやすく、心臓を栄養する冠動脈や脳動脈、頸動脈、腎動脈、四肢の動脈などを障害し、心筋梗塞や脳梗塞などの心血管イベントの直接的な原因となります。

  2. メンケベルグ型硬化:血管平滑筋細胞は細胞老化をおこすと骨芽細胞様に形質転換して、骨を形成するように動脈の中膜にカルシウムを沈着することがあります。血管壁にカルシウムが沈着して伸縮性と弾性を失った動脈硬化をメンケベルグ型硬化といい、進行すると収縮も拡張もできない土管のような血管になります。血圧の調整ができなくなるので、塩分・水分を摂りすぎて血液のボリュームが増えると収縮期血圧180mmHg以上の過度な血圧上昇を来たしたり、脱水に陥ると収縮期血圧90mmHg未満の低血圧なったりと、外的な要因で血圧が乱高下するようになります。また、歩き出しや立ち上がりなど動作の始まりなどで血圧の調整が遅れて頭頸部への血流が一過性に低下することで、めまいやふらつきを感じることも多くなります。さらに弾性を失って心臓からの駆出圧が血管壁にダイレクトにかかるようになるため、血管内皮細胞が傷つきやすくなりアテローム動脈硬化も合併しやすくなります。酷いときは中膜レベルに損傷が及び、動脈解離や動脈瘤を発症することもあります。

  3. 細動脈硬化:大脳の深部や腎臓、網膜などに分布する径0。2mm程度の細動脈におこる動脈硬化の一種です。上述の通り、細動脈は持続的に緊張して血管抵抗を生み出していますが、血圧が高い状態が続くと、血管を構成する細胞が障害されて血管壁が薄くなったり、修復が繰り返されることで血管内腔が線維芽細胞で埋まってしまったりして、ごく小さな梗塞や出血が発生するようになります。このように細動脈硬化は大脳深部の穿通枝が閉塞するラクナ梗塞や慢性腎疾患、眼底出血の原因となります。

どうすればいいのか

動脈の石灰化をおこすメンケベルグ型硬化や血管床が全体的に硬くなる細動脈硬化は進行してしまった状態から元に戻ることはほとんどありません。アテローム動脈硬化は血中のLDLコレステロール濃度を下げる薬をしっかり内服し続けることでプラークが退縮することがあります。ただ、どのタイプの動脈硬化でも心血管イベントの発症を回避することが管理の目的となりますので、これ以上進行しないように努めることが重要です。具体的には下記の生活習慣病の管理や予防になります。

  1. 血圧コントロール:血圧は動脈硬化の管理において最も重要な事項です。血圧上昇は全てのタイプの動脈硬化の発症・進行に深く関与しているだけでなく、脳出血などの心血管イベントが発症する直接的なきっかけにもなっています。日本人の高血圧の最大の原因は食塩の摂り過ぎであるといわれており、1日の摂取量を男性7。5g未満、女性6。5g未満を目標に減塩を心がけましょう。生活習慣の改善や適度な運動、体重管理、十分な睡眠なども血圧を下げる効果がありますが、まずは普段の料理の味付けを薄くすることから取り組みましょう。そのうえで血圧計を用意して自宅で血圧を測る習慣をつけましょう。家庭血圧を記録することで健康管理の意識が高まり、減塩や生活習慣の改善に繋がると言われています。

  2. 脂質コントロール:LDLコレステロールはアテローム動脈硬化の直接的な原因となります。HDLコレステロール以外の脂質成分は全て動脈硬化の発症・進行に関与しますので中性脂肪(トリグリセリド)などにも注意する必要があります。過食、運動不足、睡眠不足、喫煙、肥満、ストレス、お酒の飲みすぎ、遺伝的要因など様々な因子が脂質の合成・代謝経路に影響し、血中のコレステロールや中性脂肪(トリグリセリド)などが上昇します。そのため、食事内容の改善や運動習慣、十分な睡眠、禁煙・禁酒など全般的な生活習慣の是正が重要です。

  3. 血糖コントロール:糖尿病は微細な血管を障害するイメージですが、中動脈以上の太い血管の動脈硬化にも深く関与します。高血糖の状態が続くと、血管内皮細胞のコラーゲンなどのタンパク質が「糖化」と呼ばれる現象で変性し、炎症反応を惹起します。障害された血管壁にコレステロールや炎症細胞が浸透してアテローム動脈硬化に伸展します。高血糖が続くときは、筋肉や脂肪組織などのインスリンに対する感受性が低下し、血中のブドウ糖取り込みが低下した「インスリン抵抗性」が背景にあることが多いです。血糖コントロールにおいては食事中のカロリーを抑えることが重要ですが、運動不足・睡眠不足・ストレス・喫煙などの生活習慣の乱れや肥満を是正して「インスリン抵抗性」に対してアプローチすることが必要です。

  4. 内臓脂肪型肥満の是正:内臓脂肪とは腸間膜や大網に付着している脂肪組織で動脈硬化の発症・進行に関わるとされています。内臓脂肪が蓄積すると「PAI-1(プラスミノーゲンアクチベーターインヒビター1)」という動脈硬化を進展させる物質を多く放出します。一方、脂肪細胞から分泌される「アディポネクチン」という血管修復やインスリン抵抗性の改善によって動脈硬化に抑制的に働くホルモンは、内臓脂肪の蓄積によって減少します。内臓脂肪は皮下脂肪に比べて合成・分解活性が高く、減量によって減少しやすいとされていますので、食事内容の改善や習慣的な運動が重要です。

  5. 禁煙:喫煙の動脈に対する弊害を上げたらキリがありませんが、一番直接的なものは「酸化ストレス」です。活性酸素やフリーラジカルなどによって血管内皮細胞が障害され、炎症反応が惹起されます。障害された血管壁にコレステロールや炎症細胞が浸透し、泡沫細胞の素となる酸化LDLが産生されてプラークが形成されます。アテローム動脈硬化を発症した後も、アディポネクチンの低下や血小板凝集作用の促進によってプラークが不安定化し、心筋梗塞や脳梗塞などの心血管イベントをおこしやすくなります。禁煙による心血管イベントの予防効果は薬物療法よりも大きく、禁煙後比較的早期から効果が現れるとされています。
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