不整脈
不整脈とは
正常な脈拍数は1分間に50~100回で、基本的に一定の調律で心臓は拍動しています。脈が遅すぎたり(徐脈)、速すぎたり(頻脈)、リズムが乱れたりした状態を不整脈といい、進行すると心臓のポンプ機能が低下することもあります。特に1分間に40回未満の徐脈、もしくは180回以上の頻脈の場合は正常な血行動態が保てなくなる可能性があり、強い動悸として自覚されます。
なぜ不整脈になるのか
心筋細胞にはアクチンやミオシンなどの収縮タンパクで構成された筋節(サルコメア)が大量に存在しており、筋節が規則正しくまとまって配列して筋原繊維(ミオフィブリル)を構成し、心筋細胞の収縮・弛緩の約割を担っています。この収縮・弛緩はナトリウムイオンやカルシウムイオン、カリウムイオンなどの電解質が細胞の内外にダイナミックに移動することで発揮され、心筋細胞の電気活動として観察されます。
心臓は血液を送り出すポンプとして機能するため、心筋細胞はバラバラに収縮するのではなく、全体が収縮・弛緩するようにタイミングを合わせて電気的に活動する必要があります。そのために必要になるのが「伝導路」と呼ばれる電気信号のメインの通り道です。右心房に存在する「洞結節」が電気信号を発生させ、左心房と両心室へ興奮を伝えます。心房から心室に伝わる際に、心房心室間の中央付近にある「房室結節」という関所のようなところを通過し、右心室と左心室の間にある「ヒス束」を通って、「プルキンエ繊維」を介して心室の心筋組織へ興奮が伝わります。
正常な状態では洞結節が1分間に60〜100回のペースで規則正しく興奮し、心筋組織は調和の取れた収縮・弛緩を繰り返して、心臓のポンプ機能が発揮されます。しかし何らかの原因で伝導路の規則正しい興奮が障害されると不整脈として現れます。伝導路とは別の部分から異常な電気的興奮が発生し伝導路の信号に割り込んでしまったり、伝導路とは別の電気的な回路に電気信号が捕らわれてしまったりすると、脈が速くなるタイプの不整脈(頻脈性不整脈)が出現します。洞結節が興奮しにくくなったり、伝導路が障害されて電気信号が伝わりにくくなったりすると脈が遅くなるタイプの不整脈(徐脈性不整脈)が生じます。
心筋細胞は障害されたり負荷がかかったりすると電気的に不安定になることがあるため、多くの心疾患で不整脈が合併します。また、高カリウム血症や低カリウム血症、高カルシウム血症などの電解質異常も心筋組織の電気的活動を不安定にさせ、不整脈を生じます。
どうすればいいのか
不整脈の自然経過は、その種類や頻度、基礎疾患などによって大きく変わってきます。例えば、伝導路以外の固有心筋から異常な電気的興奮が出現して生じる心室期外収縮の場合、基礎疾患のない健康な方に低頻度で出現するならば「しゃっくり」のようなものとして様子をみることが多いです。一方で心筋梗塞後の患者さんに高頻度で出現したり、連発したりする場合は突然死のリスクがありますので検査や治療などの介入が必要になります。
心房細動のように心内に血栓が生じて脳梗塞のリスクになるような不整脈では、症状がなくとも予防的に抗凝固薬の内服が望ましいケースが多くあります。また症状が強い場合は、抗不整脈薬の内服だけでなくアブレーションなどのカテーテル治療を行うこともあります。
洞不全症候群や房室ブロックのような脈が遅くなるタイプの不整脈(徐脈性不整脈)は加齢によって進行することが多く、最終的にペースメーカー埋込み術が必要になることがあります。
以前に心室頻拍や心室細動などの致死性不整脈で死にかけた方は突然死のリスクが非常に高いため、抗不整脈薬の内服に加えて植え込み型除細動器という小さな電気ショック装置を体内にいれることもあります。
相性の悪い複数の不整脈が合併した場合や先天性心疾患などの構造異常に伴った不整脈が発症した場合は、さらに専門的な治療が必要になり、不整脈治療に特化した医療チームのある施設へ紹介することになります。
このように不整脈の治療内容は病態に応じて大きく変わってきますが、どの不整脈の診療も必ず心電図で異常な波形を確認することから始まります。動悸などの胸部症状が気になる場合は、まず循環器科の専門医の診察を受けましょう。